第86回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第86回研究例会

 開催方式につきましては,昨今の情勢を踏まえ,対面とオンラインの併用としました。


日時:2023年12月9日(土曜日)15時~18時

開催方法:東京大学(本郷キャンパス) 法文2号館2階一番大教室+Zoomミーティング

発表者①:郡昌宏(東京外国語大学大学院博士後期課程)

題目:北朝鮮における「文学の中の社会」と「社会の中の文学」

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)では、1990年代の社会主義圏の崩壊と自然災害による経済危機を契機として社会のありようが大きく変化し、政権はそれに対応し支配を維持してきた。そうした北朝鮮の社会を分析するにあたって、最高指導者の著作集や朝鮮労働党機関紙『労働新聞』、学術的雑誌などをはじめとする政策と密接に関係する公刊資料からだけでは捉えきれない、北朝鮮の人々の意識や生活の具体的な変容を分析するためには、北朝鮮の文学作品の分析が有用であると思われる。文学作品を扱った研究はこれまでにも多くなされており、主に北朝鮮の独特の支配体制の中での社会描写の特徴に分析の焦点が当てられてきた。

 しかし、ある社会において、作家によって文学という形で社会(世界)が読者に対して提示されるということ自体が「社会的」なコミュニケーションであるという点、またそれはいかにして可能であるのかという点はあまり意識されてこなかったように思われる。これらを考察することにより、社会が、他ならぬ「文学」という形式で描写されることの意味を明らかにできるのではないか。換言すれば、「文学の中の社会」という観点だけでなく、「社会の中の文学」という観点にも注目することで、より立体的な北朝鮮の支配秩序の研究が可能となるのではないか。

 このような問題意識のもと、本発表では、北朝鮮の代表的な月刊文学雑誌『朝鮮文学』に収められている短編小説を主な資料として北朝鮮の支配秩序の実相の社会学的分析を試みる。文学作品において、イデオロギー言説や人々の意識・生活の変化の描写に注目し、北朝鮮社会の変容や、体制がそれをどのように認識しているかを探究するとともに、社会における文学のあり方が支配秩序とどのような関係にあるのかを考察していく。



発表者②:韓光勲(大阪公立大学大学院博士後期課程、日本学術振興会特別研究員)

題目:関東大震災朝鮮人虐殺をめぐる記憶運動

 2023年は、東京を中心として甚大な被害をもたらした関東大震災から100年である。関東大震災が起きた後、関東地方の各地で、「朝鮮人が井戸に毒を投げた」や「朝鮮人が日本人を襲う」といった流言が広がり、日本の軍隊・警察・民衆によって、多くの朝鮮人が虐殺された。

 1923年当時、朝鮮人への暴行は充分に報道されなかった。戦前は朝鮮人虐殺が充分に報道されず、調査も満足に行われなかったにも関わらず、人びとはなぜ現在、朝鮮人虐殺を記憶するようになったのだろうか。それは、日本における市民運動のあり方と関係している。結論を先に述べると、1980年代以降、歴史の事実を掘り起こす日本の市民運動が盛んになり、関東大震災後の朝鮮人虐殺が広く知られるようになったといえる。

 本発表では、1980年以降に活動を始めた「関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会」(以下、ほうせんか)に焦点を当てる。ほうせんかはこれまでどのような活動を行ってきたのか。会報誌の分析と、会員へのインタビューからその活動の軌跡を明らかにする。本研究によって、関東大震災時の朝鮮人虐殺の記憶に影響を与えてきた市民運動のあり方が明らかになるだろう。



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