第88回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第88回研究例会

 開催方式につきましては,昨今の情勢を踏まえ,対面+Zoomのハイブリッド形式としました。


日時:2023年4月6日(土曜日)15時~18時

開催方法:東京大学(本郷キャンパス) 国際学術総合研究棟1階 文学部三番大教室+Zoomミーティング

発表者①:中川咲恵(東京大学韓国朝鮮文化研究専攻修士課程)

題目:「在日」アイデンティティ言説の再構築:韓国学校卒業生の事例から

 戦後の在日コリアン社会では、朝鮮半島に起源を持つ祖先や集団的記憶、言語・文化・慣習などを備えた者を「正」とする画一的な「在日」像が共有されてきた。そのため、日本で生まれ育ち「日本人化」していく新世代の同化を問題視する声が目立った。だが、今日の若者世代は、言語能力、文化、思考などのあらゆる面において、すでに「日本人」とほとんど変わらない現状にある。すなわち、在日コリアン若者世代を理解するには、「日本社会への同化」よりも、「朝鮮半島社会への民族化」の観点からのアプローチが必要である。その「民族化」 を考えるにおいて、本発表は、民族教育と民族的アイデンティティ形成の関係性を示す言説に着目した。

 戦後、在日コリアンの奪われた民族性の奪還と民族的アイデンティティの育成を目的に設立された民族学校では、本質化された「民族」、「在日」のカテゴリーが前面化された教育が行われていた。ところが、近年の韓国学校では、民族教育に加えて、本国連携教育やグローバル教育を取り入れた複合的な教育環境が展開されているほか、在日コリアン生徒の減少とニューカマー・一時滞在者の増加など、過去の民族教育の場とは大きく変容した様相を呈する。本来,在日コリアンにとっての民族教育の場が民族的アイデンティティ形成の場であったことを前提とすれば、今日の韓国学校の教育環境の変容により、従来の民族教育と民族的アイデンティティ形成の関係性を表す言説とは異なる、新たな局面が生じている可能性が考えられる。

 以上の問題意識を背景に、本発表は、韓国学校A校での就学による在日コリアン若者世代のアイデンティティ形成の様子を通時的に分析しながら、若者世代にフォーカスした「在日」アイデンティティ言説の発見・再構築を試みる。

発表者②:重岡こなつ(東京大学韓国朝鮮文化研究専攻博士課程)

題目:巫俗式村落祭祀の「伝承」をめぐる制度と社会関係の力学:三地域の事例から

 村や部落を単位として行われる祭儀・村落祭祀(部落祭・洞祭)は、韓国において1960年代以降、急速に縮小・消滅していった。韓国の村落祭祀は大きく儒教式と巫俗式に分けられるが、特に巫俗式村落祭祀はキリスト教の広まりや1970年代のセマウル運動・「迷信打破」政策などの影響を受け、より加速的に減少したことが指摘されている。

 このように、村落祭祀がなぜ消失したのかについては社会的状況や先行研究によってある程度の説明が与えられているが、本発表が問題にしたいのは、そのような状況があったにも関わらず今日においても実践されている村落祭祀(特に巫俗式村落祭祀)について、なぜその維持が可能であったのかという点である。

 本発表においては、2023年から2024年にかけて発表者が京畿道・江原道・済州島において観察を行った巫俗式村落祭祀の事例から、韓国内の研究において「村落信仰(마을신앙)の伝承」として素朴に把握される傾向にある儀礼維持の方法について、制度と社会関係あるいはその相互作用を中心に考察を行う。また、現代において巫俗式村落祭祀を成立させるための諸条件(儀礼を依頼する共同体の維持・巫者間の継承・巫者に対する信頼の醸成・祭費の解決など)と儀礼の維持に伴う変化(維持のためにもたらされた変化・維持されたことにより経験された変化)について検討する。



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